●相続における骨肉の争い
我が国の民法は、戦後、長子相続から共同相続に改められ、相続人である子供の間では、相続の割合は原則として平等(均分)とされました。長男も次男も他家に嫁いだ長女も平等ですし、親の面倒をみた子もそうでない子も、家業を継いだ子もそうでない子も平等です。このように法律が根本的に変わったことに加えて、戦後核家族化が急速に進むとともに、各相続人の権利意識も高まりました。「法律的には平等なのだから自分の正当な権利は主張したい。貰えるものは貰いたい!」と考える相続人がほとんどです。ところが、親の財産は不動産や自社株など分けづらい財産が中心となって構成されています。そのようなことが相まって、遺産分けの話がなかなかまとまらず、骨肉の争いがしばしば起こるようになりました。
「兄弟姉妹は他人の始まり」という言葉があります。その上、それぞれの兄弟姉妹に配偶者が応援団としてついていますから、なお始末が悪く、なかなか話がまとまらないのです。「サラリーマン、退職金駄目なら、親の遺産」ともいわれます。遺産をめぐる争いが起こるのは無理がないともいえるでしょう。
●「争続」を防ぐには
それでは、争いを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。そのためには、親が遺言をするのが最も有効な方策といえます。
例えば、遺産として土地と建物と預貯金がある場合、「長男には土地と建物を、次男と長女には預貯金をそれぞれ2分の1ずつ相続させる。」というような遺言をしておけば、それぞれが遺言通りの財産を取得することができることになりますから、争いの余地は格段に少なくなるといえるでしょう。また、家業を継いでいる子には、家業に必要な財産を相続させたいと思うのは当然でしょうし、面倒をよく見てくれる子には、まったく寄り付かない子よりも多く相続させたいと考えるのが親の人情でしょう。このような場合、遺言をすることによって法律で定められた相続の割合(均分)を変更することができるのです。
●公正証書遺言の奨めと親の責任
遺言は自筆証書遺言もありますが、どうせなら公正証書遺言をお勧めします。公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べてはるかに優れていますし、何よりも相続する側(子供達など)にとっては間違いなく一番楽でありがたい遺言書だからです。
「いや〜、公正証書遺言の良さは重々わかっているんだけど、公証役場に行くのが面倒だし、費用もかかる。第一、遺言通りに子供達がちゃんと実行してくれるかどうかも心配になる。将来内容を書き直したくなることもあるだろうが、その時も面倒だ。聞くところによると、遺言があっても遺留分で揉める例があるそうだし。第一、我が家には大した財産も無いし、子供達も別に仲が悪いわけじゃないし・・・。」あちらを立てればこちらが立たず、というか、ああ言えばこう言う、というか、実際の相談現場ではこのようなご相談者が結構いらっしゃいます。結局のところは、どのように財産を子供達に分けてあげたらいいのかを自分で決めきれず、それをああでもないこうでもないと理由を探して、遺言を書かないことを何とか自分で正当化し納得しようとしているだけなのです。
確かに、面倒な遺言は書かずに済ます方がいいでしょう。同様に、納税資金には手を付けない方がいい、借金はしない方がいい。所得税も贈与税も相続税もとにかく税金は安い方がいい、戸籍はいじらない方がいい、みんなその通りです。しかし、争いを避け、相続税を安く済ませ、納税すべきものは無理なく済ませ、残された家族にハッピーな相続をしてもらうためには、何らかの負担は必要です。神に祈っても争続は回避できません。仏に念じても相続税は安くならないのです。
親が楽な道を選ぶと、子供達の負担は確実に重くなります。親のツケを子供にまわしてはいけません。自分の相続問題については親は生前に自ら決断し実行しておく、それが親の最後の責任ではないでしょうか。